THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行11 12/14


■診察台は拷問台

もうこうなったら自分はまな板の鯉だ・・・鯉でよかったよな? 鮎だっけ? 鮭? やっぱり鯉だ。
良樹は、できるだけ今の緊張から逃れたかったが、別のことなど考える余裕はない。

「はい、おとうさん。麻酔」

「うむ」

薄目を開けると赤い鼻が注射器を持って迫ってくる。
・・・と、すぐさまそれは引っ込んだ。

「ダメだ。お前、打ってくれ」

「アラ、大丈夫ですか? はい、じゃ・・・大きく口開けて」

歯茎のあたりがチクリとしたが、虫歯の痛みに比べれば、どうということはない。

「しょうがねぇ。ちょっと顔でも洗ってくるか・・・」

父親が立ち上がった。
注射を終えた母親が言った。

「じゃね、麻酔が効いてくるまで、5~6分待っててね」

やがて唇のあたりがシビレて来る。
そのシビレは徐々に歯茎から舌の半分くらいまで達し、気がつくと虫歯の痛みは感じなくなってきた。

父親が戻って来る。
まだ、酒臭さは充分残っていたが、さっきよりいくぶん目のまわりはスッキリしている感じだ。

父親は腰掛けて良樹の顔をのぞき込むなり、いきなり良樹の左の頬をつねった。

「イテ!」

「お! すまん。反対だった」

続けて右の頬をつねられたようだが感覚はない。
くそう! わざとやりやがったな・・・と良樹は内心そう思ったが抵抗できるはずもない。

「よし、効いたな。じゃ口開けて・・・」

良樹が口を開くと、聞くだけで痛くなるようなドリルのイヤ~な音が響き始めた。
酒臭い息が、また強く感じる距離まできて、ドリルの音が最高に近くなった時、父親は言った。

「で? うちの娘とは、どこまで行ったんだ?」

良樹は思わず両目を見開いた。


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