Episode No.1412(20030304)
バカにしててもはじまらない

「私は思ふのである。
 凡て芝居というものは一般に流行る芝居を真似て、
 それと同巧異曲、つまり一番評判のよいものの
 イミテーションを取り扱ふ事が必要である。
 時代の要求を反映した模倣が必要である」

こんなことを口にするのは決して芸術家ではなく、
きっと金勘定にだけ長けた商売人に違いない。

確かに・・・
この言葉を残した小林一三
戦後の復興大臣まで務めた名実業家。

阪急鉄道や百貨店の、事実上の創業者だ。

だが、それだけではない。
国内で採算がとれる数少ない劇団・・・
宝塚歌劇団の父でもあり、
東京宝塚劇場・・・つまり東宝の創業者でもある。

小林一三の言葉は、こう続く。

「某々といふ狂言が当たりをとったら
 それを真似ればよい。
 そうやってゐる間に、
 役者自身の持つ持ち味が、
 自づと或る特色をかもすもので、
 そこに初めて自づと各劇団の特色が生まれ、
 持味が出来、
 またそこに興行的価値が生じてくるのである」

芝居に限らず、幅広く一般ウケした技を
寸分狂わず真似ることができたとしたら・・・
考えようによっては、それだけで大したモノ。

無論、新しい表現に挑戦する心構えは大切だけど
これは新しい・・・と自分勝手に思っても
本当はとっくに使い古されたアイデアかも知れない。

肩肘張って何もできないでいるよりは
真似でも何でもやり続けていた方がいい。

続けていれば・・・
やがては、自分ならではの表現になってくる。

自分でやってみる・・・というだけで
もう充分に、
これまでの世界にはなかった
新しい表現に違いない。

無論、それだけじゃあ・・・
プロとして食っていけないだろうけど、ね。


参考資料:「小林一三/経営語録」中内功=編 ダイヤモンド社=刊