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Episode No.659(20001006):美しい乱れ

医者で文豪の森鴎外が『舞姫』のモチーフとなったドイツ留学から帰ってきた時・・・
欧米文化を必死に取り入れようとしていた当時の政府から、都市計画の諮問を受けた。

政府としては日本の都市もヨーロッパのように石造りで・・・
建物の高さもピシッとそろえた方がいいと考えていて・・・
森鴎外に、その後押しをしてもらおうと踏んでいた。

ところが当の森鴎外は、ひと言・・・「そんなもの、バラバラでいい」と答えたという。

少し前に「1/fゆらぎ理論」とかいって・・・
自然に近い「美しい乱れ」こそが人間にとって優しい環境をつくるコトがもてはやされた。

森鴎外の答えは、そんな意味合いを含んでのコト・・・だったと推察される。

「1/fゆらぎ理論」で作られた街並み・・・
例えば街路樹などは決して一直線に並んで植えられてはいない。
何本かに1本が、ちょっとズレていたりする。

その「乱れ」が「リズム」を感じさせ・・・
あたかも自然の林の中を歩いているような感覚にさせてリラックスできるんだそうだ。

確かに「汚れ」や「乱れ」があるからこそ「整然とした美しいモノ」が際だつコトは確か。
あまりに整然とし過ぎた、つくば学園都市で自殺者が多い・・・というのも以前、話題になったよね。

昔よく自分の写真の真ん中に鏡を立てて実験したコトがあるんだけど・・・
人間の顔って左右対称じゃないところが・・・イイんだと思う。

鏡に映して左右対称の顔を見てみると・・・
やけに怖かったり、情けなかったり・・・見える。
どっち側の顔が、あなたの外ヅラで反対側が内ヅラだ・・・なんて話も聞いたコトあったな。

三島由紀夫は、男のおしゃれについて・・・どこかがヌケてないとダメだと語っている。
全身ビシッとブランドものでキメるのは嫌味なだけ・・・
靴下だけが300円だとか、ネクタイだけが安物だとか・・・
三島由紀夫自身は自衛隊の売店で売っていた100円ネクタイというのが締めやすくて気に入っていたらしい。
そういえば今でも100円ショップでネクタイ、売ってるよね。

ただし、あくまでも「1/fゆらぎ理論」は整然とした中での「一部の乱れ」であって・・・
「乱れ」っぱなしの中の、ごく一部の「整然」ではない。

たとえ、どんなグータラな奴でも、ひとつくらいイイところがあるモンだけど・・・
よほど親しくならない限り、そんなモノは誰にも発見してもらえない。

モノだらけで乱れきった私の部屋も・・・
一番困るのは必要なモノがなかなか見つからないコト。
それを探し出す時間が・・・実にもったいない。

今年も年賀状の予約はがきが届く時期になった。
20世紀の最後くらい・・・少しは片づけないと、ね。


参考資料:「人が快・不快を感じる理由」武者利光=著 KAWADE夢文庫=刊