Presented by digitake.com

 

Fictional Talk No.007

架空対談人気とは

M「あら、いらっしゃい。ジョージ」

B「やぁ、また寄らせてもらったよ。カズ」

M「いつでも遊びに来てくれて、いいのよ。私、眠る時間がないほど忙しかったのがウソのように、今はのんびりしてるんだから。それに、ジョージ。あなたと話していると、まるで他人のような気がしないのよ」

B「ハッハッハッ、そう言ってくれると思ったよ。確かにキミと俺は、生きる世界は違ったけれど、とても似た境遇にあったかもしれないね」

M「そうね。あなたも私も国民的な人気に支えられて、数多い栄誉もいただいたわね。あなたなんて、時の大統領より人気が高かったっていうじゃない」

B「ああ、大統領にサインを3枚ねだった子供がいて、大統領が『これはみんなキミのかい?』って聞いたら、1枚は自分ので、残りの2枚は俺のサインと交換する用だと答えて、大統領が苦笑いをしたという話ね。そんなこともあったなぁ」

M「人気が出てくると、いろんな誘いがあるじゃない?! もちろん、それが芸のコヤシになるようなチャンスなら、どんどん挑戦していくしかないんだけれど。中には有力な政治家が後援会長になりたいなんて申し出てきたり・・・」

B「もちろん断ったんだろ、キミは」

M「もちろん断ったわ。私の人気を利用しようなんて、いけ好かない話よね。私は常に私を支えてくれた大衆のものでいたかったし」

B「そいつは最もな話だ。俺たちは明日をも知れない人気商売。でも、なまじヘンな権威にのっかっちまう方が怖い。明日をも知れないからこそ、常に自分を磨かなきゃあ」

M「そうね、そういう姿勢がなければ、大衆からの支持は決して得られるものじゃないものね」

B「しかし、時代は変わった。今じゃ俺なんかより、はるかにスゴイ連中が世間を騒がせているよ」

M「時代が変わっていくのは仕方のないこと。でもね、ジョージ。あなたの記録は、あの時代にあっては、やっぱり驚異的なのよ。試しに今の人たちに、あなたの時代に使っていたのと、まったく同じ道具で記録に挑戦させてみるといいわ」

B「ハッハッハッ、キミに慰められるとは思わなかったよ、カズ。思えばキミは、俺が死んだ年にデビューしたんだっけな」

M「あら、でもあなたが亡くなったのは53歳。私は52歳だったから、たったひとつしか変わらないわ」

B「そりゃそうだ。しかし、キミと話をしていると、俺は"ベーブ"ではなく、ジョージ・ハーマン・ルース・ジュニアに戻れる気がするよ。キミもジョージと呼んでくれるし」

M「"ベーブ"って赤ちゃんっていう意味でしょ。いくら、あなたが童顔だからって・・・。もちろん、ファンの人たちは親しみをこめて、そう呼んでいたんでしょうけど、あなたほどの大巨人をつかまえて失礼な話じゃない?! 私もあなたと話していると、美空ひばりじゃなくて、魚屋の娘、美空和枝に戻れる気がするわ」


参考文献:「日録20世紀 1948 昭和23年」講談社=刊

[ Backnumber Index ]